———バレンシア大陸は、すべて ふたつの顔をもっている。それは、大陸がその誕生の時より 定められた運命だという。 そこには、二人の神がいた。 一人は優しさと美しさをもって自然との調和を司る地母神ミラ、 そして、もう一人は力と逞しさをもって自然の統率を司る男神ドーマ。 ふたつの力は長い間、激しく争った。 そして、長い年月の果て、二人の間には一つの盟約が 交わされ、新しいかたちが生まれた。
バレンシアを南北に分け、 南をミラの支配下に、北をドーマの支配下に置く。 それが二人の神の間に交わされた契約だった。 ミラの支配する南のサザン地方には文化の国・ソフィア王国が、 ドーマの支配する北のノーザン地方には騎士の国・リゲル王国が 生まれた。リゲルは大陸を守り、ソフィアは豊かな実りを与える。 二つの異なる恵みを持つ国は、お互いに侵すことなく、 数百年を平和のうちに共存し続けた。しかし・・・
あまりに長い平和の時が、ソフィアの民に 変化を与えた。ソフィアの民の欲望は膨れ上がり、やがて 富を求めてミラの教えを忘れ、自然と共に生きることをも 忘れはじめた。かつては大陸全土に翼を広げていた飛竜も その野望の矛先となった。ここにミラの力は衰退する ばかりとなった。 そして、一方の神の衰退は、バレンシア大陸の調和を 狂わせることになっていった。 ソフィア王国の騎士マイセンと将軍ドゼーは、民衆の心の 荒廃に憂い、国王リマ四世に幾度となく進言を繰り返した。 だが、すでにリマ四世は自身の欲望によって全てを欲しいままに すべく動く野望の王と成り果てていた。自身の妃も、時の国教 ミラ教で禁じられた、修業の徒にある娘との権威による婚礼で 決定するに至った。ここにきて時の法王はついにリマ四世を破門。 しかし、逆上したリマ四世は法王を捉え、神託と称しこれを処刑、 そのうえミラ教そのものを南方の孤島ノーヴァへ追放すると 国教をミラ教から分派させ、自身を神格化したのである。 やがて、身内に連なる王家の者を利用してソフィア王国を分かち、 さらなる富をその手にする野心をも のぞかせた。
そのような経緯を経て東ソフィアの動乱は起こった。 ソフィア王家の者に分割独立させていた小王国で、 暴徒化した一大勢力との戦いが起きたのだ。激しい動乱は ソフィア一世の勇者として知られることになる聖騎士マイセンの活躍と 混乱を憂いたリゲル国王ルドルフ一世が差し向けたリゲル軍の手もあり 鎮圧されたが、ソフィアは一連の動乱により王位継承者らを多数失った。 打ち続く出来事の呵責に王妃は発狂し先立ち、世継ぎもなくなった。 だが、リマ四世の権威は揺るがずその治世は続いた。
様々な思惑が交差し、それから十数年の時が流れようとしていた。 一方のリゲル王国では、ミラの力の衰退を好機とするかのように ある集団が勢力を伸ばしていた。ついに飛竜が絶滅した事を受け 竜を崇める苛烈な思想を含む者達が動き始めていたのである。 やがて、ミラの衰退を象徴してか大凶作による被害が発生した。 国王ルドルフ一世は思案を重ねた末、ソフィアに援助を求めた。 しかし、その援助の要請にリマ四世は動くことをしなかった。 地域諸侯らの信頼厚い将軍ドゼーは宰相を務めるまでになっていたが、 ソフィア王国の心ある者も、国王の無関心な態度の前には、 なすすべがなかった。やがて、ルドルフ一世の元に届いた親書に 伝えられたのは、支援の拒否だった。 この時、ルドルフ一世はかつてマイセンに託したある願いを胸に 一つの決意を下した・・・ そして、ソフィアではリゲルに対する非礼を問われた リマ四世が飽食の戒めとし毒殺により処刑された。 リゲルではそれに呼応するかのごとく ミラが封印された。 歴史は大きくうねりだしていた———
東ソフィアの動乱を機にソフィア城を去っていた 聖騎士マイセン。彼は故郷、ラムの村にいた。彼が辺境の村で ひっそり暮らす選択をしたのには、二人の子を育てる目的があった。 マイセンは知っていた。それは、自分の生涯の中でも、もっとも 大事な使命を果たすことに繋がると。そうして、それぞれの子が 歩むべき道をそれぞれに良い形で迎えさせていたさなかのある日、 時代のうねりが彼らの元にも届くこととなる———